2合目 心の登山に必要な物

2合目 心の登山に必要な物

エニアグラムという心の登山地図~

エニアグラムとは何か?

 

 象徴図形としてのエニアグラムの起源について、史実として確認できる情報は皆無である。(出典ウィキペディア

 グルジェフが発見したシンボル図形に、1960年代になってオスカー・イチャーゾが性格の9タイプを関連付け、クラウディオ・ナランホ、ヘレン・パーマー、ドン・リチャード・リソ、ラス・ハドソンらのエニアグラム研究家によって主にアメリカで広められた。

日本ではじめてエニアグラムが紹介されたのは1987年で『エニアグラム入門ー性格の9タイプとその改善』が春秋社から刊行されている。翌年、訳者である聖心女子大学教授鈴木秀子氏を中心に「日本エニアグラム学会」がスタートした。

 

 エニアグラムの解説本やウェブサイトはたくさんあるが、そのほとんどが2次元(平面)図形をもとにした性格タイプの類型を詳細に述べたものである。リソ・ハドソンの2000年の書籍『性格のタイプ―自己発見のためのエニアグラム』の中で紹介されたダイナミックモデル「統合と分裂の方向」、垂直方向への心のレベルの記載「健全〜通常〜不健全」という概念構造、それらを立体化したものは円錐形もしくは円柱形のモデルしか見当たらない。

 

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C+F研究所HP(http://www.transpersonal.co.jp/p/enneagram/about/9types/

人間の性格タイプを9つの基本タイプに分類し、そのタイプ特有の根元的な怖れと、その怖れから発動するタイプ特有の欲動、情動に従って健全な心の状態から通常の状態、不健全な状態へと下がっていく心理的ダイナミズムを説明するモデルで、その幾何学的シンボル図形上でそれぞれのタイプの関連性までもが現されている。

 

以下タイプの概略を述べると、



タイプ1:改革する人

自分にきびしく 他人にもきびしい

完璧主義者 改革タイプ (The Perfectionist)



タイプ2:助ける人

思いやりがあり、たまに自分を犠牲にしすぎる

人を助ける 必要に応えるタイプ (The Helper)





タイプ3:達成する人

周囲からの高い評価を求める

実行者 達成するタイプ (The Achiever)



タイプ4:個性を求める人

周りと同じことは好まない

個性的 芸術家タイプ (The Designer)



タイプ5:調べる人

知識を蓄え、分析する

学習者 観察するタイプ (The Investigator)



タイプ6:信頼を求める人

まじめで誠実な

忠実 疑い深いタイプ (The Loyalist)



タイプ7:熱中する人

楽観的で衝動的な

熱中するタイプ (The Enthusiast)



タイプ8:挑戦する人

他人に頼らず自己主張が強い

挑戦する人 ボスタイプ (The Boss)



タイプ9:平和を好む人

葛藤を嫌い、調和を求める

平和をもたらす人 調和タイプ (The Peacemaker)



このエニアグラムのタイプ診断とマズロー欲求段階説を組み合わせると、より心のダイナミズムが分かりやすく説明される。




マズローの欠乏欲求(欠乏動機)と成長欲求(成長動機)~

動機付け理論で知られるアブラハム・マズローだが、その功績は神経症への心的力動を欲求(動機)と関連づけたことと、欲求には階層構造があり、下位の欲求が満たされることによって上位の欲求へと動機づけされるということを見出したことだ。これは欲求五段階説として広く解説されているが、マズローの一番の発見は欲求を、種類の違う欠乏欲求と成長欲求とに分類したことである。そして成長欲求は自己実現へのエネルギーの源泉であり、その欲求自体が成長への目的となると看破したことに大きな価値がある。

 

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https://jibun-compass.com/maslow

人は低次の欲求から段階を踏んで階層的に高次元の欲求を求めていく、具体的にはまず生きていくうえで基本となる1.生存欲求

身を守るための2.安全欲求

所属と愛を求める3.社会的欲求

他者から認められたい、自分を認めたいという4.承認欲求

マズローの言葉を借りると、有機体において本質的に欠けているいわば空ろな穴であり、それは健康のために満たされねばならず、しかも、主体以外の人間によって外部から満たされねばならない。これを説明するために欠損欲求あるいは欠乏欲求と呼び、別の非常に違った性質の動機と対照的におこうとする」(完全なる人間27P)

と。ここまでの欲求は欠乏欲求と呼ばれ、これらの欲求は下から順に満たされるのが優先事項となる。

階層的に下位の欲求がある程度満たされないと次の段階の欲求は現れない、そして4番目の欲求が満たされて初めて成長欲求である5.自己実現欲求が現れる。

また4番目の欲求(承認、自我)には2段階あり、他者からの評価に対する欲求と自己の自らに対する評価への欲求がある。

 

5番目の欲求は成長することそれ自体が目標となるので欠乏欲求の段階とは異なり、自己実現への純粋な動機、人間の本質へと向かう真善美感や、人間の本性に忠実な状態を目指すことになる。

再びマズローの言葉を借りると、

「人間は自分のうちに、人格の統合性、自発的な表現性、完全な個性と統一性、盲目にならず真実を直視すること、創造的になること、善なること、その他多くのことに向かう力を持っている。すなわち、人間はさらに完全な存在になろうとするようつくられている。そしてこれこそ、大部分の人が良い価値と呼ぶもの、すなわち、平安、親切、勇気、正直、愛情、無欲、善へと向かう力を意味するのである」(完全なる人間P197)

 

 

そもそもマズローは、著書「完全なる人間」の緒言 健康への心理学への中で、人間の本性は善であると述べている。そして人間は成長し、成長は自己法則に従うという。

健全に成長を続けている幼児にしてみれば、高遠な目標のために生きているのでもなければ、遠い未来のために生活しているのでもありません。かれらはあまりにも忙しく自己を愉しみ、その時その時を自然に生きています。かれらは生きているのであって生きる用意をしているのではない。かれらは別に成長しようと努めるのでもなく、ただ自然と生存し、現在の活動に喜びを見出すことだけに生きているのです。

 

成長は、次の段階への前進が主観的に喜ばしく、快適で、われわれが慣れ親しんできて、退屈さえ感じている以前の満足にも増して本当に満足すべきものである場合に、生ずるということである。(完全なる人間P57)

 

 

そうであるにも関わらず、何ゆえに神経症へと向かうエネルギーの流れは、人間の本性を隠し、理性を見えなくし、野生、本能という人を動物へと駆り立てる動力源となるのだろうか?欠乏は自らの外部にそれを埋めるものを求め続ける。獣が獲物を探し、生きるために捕食するように止めることのできない流れなのだろうか?

 

成長とは一歩一歩、地面を踏みしめ、心の山を登ることである。

生まれたての赤ん坊は生きるために自分の唇を駆使して母親の乳房から乳を飲むことで初めての支配感を満たし、生存の欲求を満たす。

成長するにつれ、身の安全を確保し、不安や混乱から逃れる術を覚え、他者への依存やルールなどの外部とのつながりの中で安心を得ようとするのだ。

孤独を怖れ、家族や学校、会社に所属したいと願う一方、それらの関係から逃れたいと感じる。様々なジレンマを経験しながら人は成長する。

少しずつ下位の欲求を満たし、時に退行しながら確かめ、操作し、挫折し、それらを繰り返して成長するのである。

この成長という大きな力動は神経症への力動を上回る。だから人間は滅びることなく、今、なお進化しているのだ。