5合目 登る方向を決める

5合目 登る方向を決める

エニアグラムの統合と分裂の方向~

 

山登りには充分な装備と準備が必要であることは言うまでもないが、準備とは自分の力量を知り、登る山のことを知ることだ。自分に出来ることと出来ないことの適正な判断、その日の体調、登る山はどんな山なのか?天気はどうか?コースは?

しっかりとしたプランニングに基づいて必要な装備を揃えなければならない。

 

心の山を登る時も同様である。今の自分の心の高度を知り、登る山への下準備は欠かせない。それぞれの心の山の特徴、つまりエニアグラムのタイプを知り、タイプごとの方向性を見極める。何の準備もせずに思いつくまま山登りを始めようものなら頂上に着くどころか、様々な脅威に脅かされて遭難することになるのがおちである。

 

エニアグラムでは自我が発動するメカニズムについてタイプ特有の根源的な恐れが存在すると述べている。

T1 では、自分が悪く、墜落し、邪で、欠陥があることを恐れる

T2は、 自分が愛されるにふさわしくないことを恐れる

T3は、 自分に価値がないこと、本来価値をもっていないことを恐れる

T4は、アイデンティティや個人としての存在意義をもっていないことを恐れる

T5は、 役に立たず、無力で、無能であることを恐れる

T6 は、支えや導きを持たないことを恐れる

T7 は、必要なものを奪われ、痛みから逃れられないことを恐れる

T8は、 他者に傷つけられ、コントロールされることを恐れる

T9 は、繋がりの喪失、分裂を恐れる

この根源的な恐れから逃れるために、根源的な欲求を作り出し、この欲求を満たすことが出来れば恐れから解放されるという妄想を抱く。

T1 高潔でありたい(批判的完璧主義に陥る)

T2 愛されたい(必要とされたいという必要に陥る)

T3 価値のある存在でありたい(成功の追求に陥る)

T4 自分自身でありたい(自己放縦に陥る)

T5 有能でありたい(無用な専門家に陥る)

T6 安全でありたい(信念に対する執着に陥る)

T7 幸福でありたい(必死の現実逃避に陥る)

T8 自分自身を守りたい(たえざる闘いに陥る)

T9 平和でありたい(頑固な怠惰に陥る)

ここでエニアグラムによる各性格タイプが抱えている心のジレンマを見てみよう。この図は、エリヤフ・ゴールドラット博士が唱えた制約理論で使われている対立解消図(通称クラウド)というもので、ゴールドラット博士の娘、エフラットさんのセミナーで使われていたものを私がメモし、そのメモをもとに作成したものである。

(各対立解消図とジレンマの説明)

各タイプが抱えるジレンマ

               

<タイプ1のジレンマ>

タイプ1は「高潔でありたい」という根元欲求に対し、「完璧な世界を目指して頑張る」そのためには「正しい事だけをする」

また、「高潔でありたい」という根元欲求に対し、「環境も自分もあるがままに受け入れる」そのためには「間違いを許す」

f:id:kokoronotozan:20190612112650j:plain

タイプ1のジレンマ

ここで「正しい事だけをする」と「間違いを許す」との間のジレンマに陥る。

 

               

<タイプ2のジレンマ>

タイプ2は「愛されたい」という根元欲求に対し、「他人から親しみを感じて認められる」そのために「自分よりも他人のニーズを優先する」

また、「愛されたい」という根元欲求に対し、「自分が好きである」そのためには「他人より自分のニーズを優先する」

f:id:kokoronotozan:20190612113107j:plain

タイプ2のジレンマ

ここで「自分より他人のニーズを優先する」と「他人より自分のニーズを優先する」との間のジレンマに陥る。

 

<タイプ3のジレンマ>

タイプ3は「価値ある存在でありたい」という根元欲求に対し、「自分を主張し、断言する」そのためには「自分のイメージを貫く」

また、「価値ある存在でありたい」という根元欲求に対し、「成功を求める」そのためには「意義ある成果に集中する」

f:id:kokoronotozan:20190612113207j:plain

タイプ3のジレンマ

ここで「自分のイメージを貫く」と「意義ある成果に集中する」との間のジレンマに陥る。



<タイプ4のジレンマ>

タイプ4は「自分自身でありたい」という根元欲求に対し、「自分に忠実であること」そのためには「自分の内部世界に向かう」

また、自分自身でありたい」という根元欲求に対し、「自分自身を表現する」そのためには「自分の外部世界に向かう」

f:id:kokoronotozan:20190612113755j:plain

タイプ4のジレンマ

ここで「自分の内部世界に向かう」と「自分の外部世界に向かう」との間のジレンマに陥る。

 

<タイプ5のジレンマ>

タイプ5は「有能でありたい」という根元欲求に対し、「何かに熟達する」そのためには「不確実がなくなるまで探究する」

また「有能でありたい」という根元欲求に対し、「自分が達成感を感じる」そのためには「不確実な状態でも行動する」

f:id:kokoronotozan:20190612113834j:plain

タイプ5のジレンマ

ここで「不確実がなくなるまで探究する」と「不確実な状態でも行動する」との間のジレンマに陥る。

 

<タイプ6のジレンマ>

タイプ6は「安全でありたい」という根元欲求に対し、「自分を守る」そのためには「すべてを疑いvs他人に頼る」

また、「安全でありたい」という根元欲求に対し、「安心感を得る」そのためには「自分を信じる」

f:id:kokoronotozan:20190612113909j:plain

タイプ6のジレンマ

ここで「すべてを疑いvs他人に頼る」と「自分を信じる」との間のジレンマに陥る。しかも「すべてを疑う」と「他人に頼る」こともジレンマである。

 

<タイプ7のジレンマ>

タイプ7は「幸せでありたい」という根元欲求に対し、「直近(今)の満足を求める」そのためには「様々な興味に転換する」

また、「幸せでありたい」という根元欲求に対し、「自分のヴィジョンをかなえて大きな成果を得る」そのためには「しっかり集中する」

f:id:kokoronotozan:20190612113950j:plain

タイプ7のジレンマ

ここで「様々な興味に転換する」と「しっかり集中する」との間のジレンマに陥る。

 

<タイプ8のジレンマ>

タイプ8は「自分自身を守りたい」という根元欲求に対し、「自分の方法でやる」そのためには「完全に支配している」

また、「自分自身を守りたい」という根元欲求に対し、「自分のヴィジョンを達成するのに他人の協力をもらう」そのためには「支配しない」

f:id:kokoronotozan:20190612114032j:plain

タイプ8のジレンマ

ここで「完全に支配する」と「支配しない」との間のジレンマに陥る。

 

<タイプ9のジレンマ>

タイプ9は「平和でありたい」という根元欲求に対し、「平和と調和が必要」そのためには「対立を避け、他人を喜ばす」

また、「平和でありたい」という根元欲求に対し、「自分のエネルギーを節約し、他人の協力と理解を求める」そのためには「対立と向き合い、態度を明確にする」

f:id:kokoronotozan:20190612114111j:plain

タイプ9のジレンマ

ここで「対立を避け、他人を喜ばす」と「対立と向き合い、態度を明確にする」との間のジレンマに陥る。



ジレンマを解消するためにはどうすればよいのだろうか?

それは対立する一方を消してやることだ。

そしてどちらを消すのか?によって根元欲求の満たされ方が変わってくる。

 

タイプ1の場合、「正しい事だけをする」を選択した場合、「高潔でありたい」という根元欲求はそのままの形では満たされず、批判的完璧主義に陥ってしまうことが予想される。なのでタイプ1はもう一方の選択、「間違いを許す」ことによってのみ、「環境も自分もあるがままに受け入れる」ことで「高潔でありたい」という根元欲求を満たすことが出来るのである。

f:id:kokoronotozan:20190612114305j:plain

タイプ1のジレンマを解消する

この選択の切り替えは意識的に行う必要がある。通常の段階ではこのことには気づかないが、レベル4の心の高度ならば選択のスイッチを切り替えることが可能である。

 

同様にタイプ2の場合は「他人より自分のニーズを優先する」

f:id:kokoronotozan:20190612114629j:plain

タイプ2のジレンマを解消する

タイプ3は「意義ある成果に集中する」

f:id:kokoronotozan:20190614101032j:plain

タイプ3のジレンマを解消する

タイプ4は「自分の外部世界に向かう」

f:id:kokoronotozan:20190612115156j:plain

タイプ4のジレンマを解消する

タイプ5は「不確実な状態でも行動する」

f:id:kokoronotozan:20190612115236j:plain

タイプ5のジレンマを解消する

タイプ6は「自分を信じる」

f:id:kokoronotozan:20190612115321j:plain

タイプ6のジレンマを解消する

タイプ7は「しっかり集中する」

f:id:kokoronotozan:20190612115520j:plain

タイプ7のジレンマを解消する

タイプ8は「支配しない」

f:id:kokoronotozan:20190612115603j:plain

タイプ8のジレンマを解消する

タイプ9は「対立と向き合い、態度を明確にする」

f:id:kokoronotozan:20190612115648j:plain

タイプ9のジレンマを解消する

の行動を選択しなければならないのだ。

 

そうでないと、タイプ2は「愛されたい」という根元欲求は、「必要とされたいというニーズ」に陥り、タイプ3の「価値ある存在でありたい」という根元欲求は、「成功の追求」へと陥ることになる。

タイプ4は「自己放縦」に陥り、タイプ5は「無用な専門家」に陥り、タイプ6は「信じている考えに対する執着」に陥るのだ。

タイプ7は「必至の現実逃避」に陥り、タイプ8は「たえざる戦い」に陥り、タイプ9は「頑固な怠慢」に陥るということになる。



これはエニアグラムにおける各性格タイプにとっての成長、心の高度を上げるための方向である<統合>と心の遭難へと向かう<分裂>の方向についての説明とリンクしている。

 

 ドン・リチャード・リソ著『性格タイプの分析』(p36~39抜粋)

私は、人は一つの基本タイプから別の基本タイプに変わることはない、という信念をずっともっている。私たちは子供の頃からある特定の性格タイプの実例ー大きなグループの中の唯一無二の個人ーとして育ってきており、したがって必然的に、今後の人生もそのタイプのままに生き続ける。私たちはその出発点、すなわち自分の基本タイプから成長し、あるいは堕落していく。その基本タイプとは、遺伝の結果と幼児期の体験、中でも両親との間でもった関係の結果、私たちがどのような人間になったかということを反映したものである。私たちがどのタイプになったかということは、深い部分での現在の自分自身であり、それが全く別のタイプに変わってしまうことはない。

 しかし、現実問題として人は変わるものであるし、エニアグラムはさまざまな種類の心の持ち方の変化を説明する。私たちは発達して成熟し、自分がそうなるべき人物になり、もしくはそのきわめて重要な課題に失敗する。私たちが成長したり堕落したりするとき、その変化の方向はエニアグラムに示された線の方向によって予測できる。誰もが、自分の基本タイプからエニアグラムの線によって示される特定の<統合と分裂の方向>に「動く」。

 <分裂の方向>(自分の基本タイプのさらなる堕落や衰弱を示すもの)はエニアグラム上で、1→4→2→8→5→7→1、および9→6→3→9という番号の順で示されます。

<統合の方向>(自分の基本タイプのさらなる統合と人格的成長を記すもの)はこれら二つの続き番号の逆、すなわち1→7→5→8→2→4→1と9→3→6→9で示されます。

f:id:kokoronotozan:20190611103227p:plain

この説明に示されている<分裂の方向>とは、人がより低次の欠乏欲求を満たそうとして自我の欲動の欲するままに生きることで発動する性格の特徴を表している。すなわちタイプ1は4へと堕落し、タイプ2は8へと堕落する。同じように各基本タイプからの矢印の方向のタイプへと堕落するのだ。これはどういう事かというと、発達の諸段階のレベル4以下で述べた特徴、例えば、タイプ1では、常に個人的義務を感じることから逃れるためにタイプ4の特徴、いつも想像の世界に浸っていること→レベル5のタイプ4の特徴、自己陶酔が原因で引きこもりになる、というように不安やストレスによってどのような特徴が現れるのかを予測する。

また、タイプ3は9へと堕落し、他者との競争に敗れて不安が高じると反動でタイプ9の段階4から5の行動特性である他人の言いなりになったり、離脱が原因で服従へと向かうようになる。

 

これと同じ原理で<統合の方向>とは、人格的成長へ向かっているときの特性を示している。これは予測ではなく、自覚を持った気づき、意識的な心構え、努力すべき目標と言える。つまり、段階4から段階3へと心の高度を上げるために必要なことを示しているのである。例えばタイプ7は、タイプ5の特性である集中力を高めることによって段階4の取得欲が高じるままにしておくことを抑制して、知識と専門的能力を高めることで、実用性と豊かさを手に入れることができるようになる。

また、タイプ6はタイプ9の特性である心の安定と育成に注意することで、他人に依存することから現実参加と他者との協力を築くことに繋がる。

 

各タイプが低次の欠乏欲求を満たし、高次の欲求に基づいて人格的成長を目指す時、<統合方向>の矢印は、エネルギーを費やすべき目標である行動指針となるのだ。

 

エネルギーには量と方向が必要だが、この章では方向について述べた。次の章ではエネルギーの量について考える。

 

<コーヒーブレイク>~統合と分裂の方向について~


まずは、分裂から説明したいと思います。
人は自分にとって嫌なこと、認めたくないことを他のせいにします。都合の悪いことを自分のせいにしたくないのです。そうやって自分の中の嫌な部分を自分の外に分離します。その分離した自分の影を悪者に仕立て(投影)、その悪者のせいにすることで自分を納得させています。何か都合の悪いことが起こるたびに、これが繰り返されます。そして自分というものをどんどん小さく分割していくのです。こうして分割、断片化された自分はさらに矮小化し、器の小さな度量のないちっぽけな存在になっていくのです。
反対に統合とは、自分から切り離した影を自分に戻すことです。気に入らない他者は自分が投影している自分の嫌な部分です。自分の嫌な部分、嫌いな所も自分の一部だと認め、それを自分のものにしていくこと、これが統合です。
まずは切り離した自分の嫌な部分(影=シャドー)を統合し、自分がつけているペルソナ(仮面)を統合し、自我を統合すること。そして私(自我)と私の身体という、頭の中のイメージを解体し、有機体としての人間として一つに統合します。さらには有機体とそれ以外の環境との統合を果たすことで超越的自己、トランスパーソナルなセルフの段階へと登るのです。このトランスパーソナルセルフへの一連の動きが、統合の方向ということです。

1割る7は、0.142857142857142857......

循環小数がこの数列で延々と続きます。この数列はまさにエニアグラムの分裂の方向を示しています。この事に何か意味を求めるのか?単なる偶然なのか?

機会があれば考察したいと思います。