6合目 登るために必要なエネルギー

6合目 登るために必要なエネルギー

~心的エネルギー~

 

心的エネルギー

物理学におけるエネルギーの概念を精神的な意味で使うと、フロイトの言うところのリビドーという概念が当てはまる。我々人間は重いものを持ち上げたり、何らかの仕事をした時に物理的なエネルギーが消費されたことに気づく。同様に物理的な仕事はせずとも、考え事に集中したり、上司に気を遣ったりすることで物理的な仕事をした時と同じように疲れを感じる。つまり、心理的な仕事が成され、それにより心的エネルギーが消費されたと考えると納得がいく。人間の仕事を見ていく時、そこに使用された心的エネルギーは性的なエネルギーに還元されると、それをフロイトがリビドーと名付けた。

それに対してフロイトの弟子であったユングは、全ての心的エネルギーが性的エネルギーに還元する必要はないと、物理学におけるエネルギーは、熱エネルギー、位置エネルギー潜在的エネルギーと量的には不変であるがその形態を様々に変えるように心的エネルギーをもっと幅広い概念に当てはめた。

心的エネルギーは物理的エネルギーのように変遷し、心の中を流動しているという。

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心的エネルギーの流れ

河合隼雄著『無意識の構造』p49図9心的エネルギーの流れ)

自我は心の内部にある心的エネルギーを適当に消費し、それは睡眠中や休息中に補給される。心的エネルギーが無意識から意識へと向かうときをエネルギーの進行、逆に意識から無意識へ向かうときを退行と呼んでいる。エネルギーの進行と退行は一日のうちに適当に繰り返されている。(略)

 消費される心的エネルギー

怒りや恐れなどの感情のエネルギーは意識の中で膨大なエネルギーを消費する。執着しかり、妬みや悲しみ、妄想、欲望などにどれだけのエネルギーが使われているのだろうか?

これらの囚われが使う心的エネルギーは膨大で、中には囚われにしか心的エネルギーを使えていない人々が大勢いる。囚われが大きすぎて、その囚われから逃れられない、永遠に心のエネルギーが囚われに使われて精神的にも身体的にも疲れているのが現代の人間社会ではないであろうか?

家庭では妻(夫)との会話に気を遣い、妻(夫)の一言に腹を立てては感情的になり、何なら物を投げつけたり、手を挙げたりと関係性を決定的に壊してしまう。

職場では気に入らない同僚とのいざこざや権力争い、上司からの様々なハラスメントに疲れ果てて、うつ病で仕事ができなくなることもザラである。

車を運転すれば、煽られ、それに腹を立て、命を落とすドライバー。

電車の中での会話に文句をつけ、睨まれただけでナイフで相手の腹を刺すような理不尽がこの日本には溢れている。

自治体の市長ともあろうものが自分の思う通りにならないからと部下を怒鳴りつけ、その怒声がレコーダーに録音され、自ら辞職に追い込まれる。いじめは小中学校だけではなく、様々な場面で立場の弱い物への抑圧のはけ口としてエネルギーが消費されている。

 

人という生き物は放っておくと本能の赴くままに争いの螺旋へと取り込まれていく。自分勝手がスタンダードになり、他者への気遣いは弱肉強食の世界では要らぬエネルギーと見做されているのだ。

この状態がエニアグラムの発達の諸段階の4、5、6〜以下の段階である。この心のレベルでは心の高度を上げるためのエネルギーは生じるどころか環境への反応に消費されるエネルギーが大き過ぎて、この事実に気づくことさえ出来ないであろう。

 

心の高度を上げるために必要なエネルギー < 環境への反応に消費されるエネルギー 

 

この状態は、高度を落とす下向きのエネルギーに心が支配されてる。

 

では、

 

心の高度を上げるために必要なエネルギー > 環境への反応に消費されるエネルギー

 

にするためにはどうしたらよいのだろうか?

 

それには、

 

1.心の高度を上げるためのエネルギーを増やす

2.環境への反応に消費されるエネルギーを減らす

 

この2つが必要である。

 

1.心の高度を上げるためのエネルギーを増やす

先に述べたが、心的エネルギーの自我が消費したエネルギーは睡眠や休息によって補給される。つまり、睡眠と休息が非常に重要になる。

なんの事はない、当たり前のことであるが、当たり前であるからこそ、大変重要なのだ!

人が眠くなる時、アデノシンという睡眠物質が脳の中で増える。アデノシンは細胞のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)が分解される事で増える。人が目覚めている時の活動にATPが使われてATPというエネルギー源が減ってくると眠くなるのだ。そして眠っている間にアデノシンが再利用されてATPが再合成され、活動のためのエネルギー源として備蓄される。ATPを増やす事はエネルギーを増やす事と同義である。


2.環境への反応に消費されるエネルギーを減らす

これまでに述べてきたエニアグラムの自分の基本タイプを知り、分裂の方向にあるタイプの特徴へと心が動きそうになることに気づく。この気づくという事が大変重要である。

そして気づく事にもエネルギーが必要だ。

自らが怒りを感じた時、恐れを感じた時、欲望を感じた時、そのことに気がつく自分が必要なのだ。自我の暴走と同一化することなく、脱同一化によって客観的に気づく。それにより、下へと流れようとする心のエネルギーを堰き止め、環境への反応に消費されるエネルギーを減らす事ができるのだ。

 

また、ストレスは心のエネルギーを大量に消費する。よってストレスの回避、ストレスからの回復は心の高度を上げるためのエネルギーを増やすための直接的な処方だと言える。まさに山登り、山歩きは打ってつけのストレス解消法である!また森林浴の科学的に実証された効果として、ストレス緩和、リラックス効果、血圧の正常化、免疫細胞の活性が高まる、血糖値の正常化などがあげられる。

 

瞑想という心の浄化法

脳はATPを分解してエネルギーを生み出して様々な思考や日々の活動に利用している。そしてアデノシンが増えて疲れが蓄積していく。そこで思考を止めて無駄にエネルギーを消費する事を避け、感情をコントロールすることを訓練すれば、まさに上向きのエネルギーが産生されまるのだ。

 

その他の意識のエネルギー

 

潜在意識のエネルギー

意識の制御下、潜在意識には、意識には現れない様々な感情が閉じ込められている。意識の奥底に潜む自分が認めたくない気持ちや辛い感情、または忘れてしまった楽しい気持ち等も含まれる。はっきりとは意識化出来ない、言語化も出来ないモヤモヤと感じる情念、情動などが、潜在意識として留まっているのだ。これらの潜在意識は凄まじい力を持っており、普段は顕在意識の下で制御されて表に出てくることはないが、睡眠中の夢であったり、何かのトラウマであったり、意識のコントロールが効かない時、もしくは突然に潜在意識の中にある記憶や感情が意識に上がり、私たちの心を揺さぶることがある。しかもかなりの大きな力で。

つまり、この潜在意識のエネルギーをうまく利用出来れば普段使うことのない、言わば眠っている力を引き出すことができるということだ。

この力の一つに直感がある。直感力は女性が強いと言われているが普段、論理的思考が優勢な男性の心よりも感性や情で判断する女性の方が直感が現れやすいのだろう。


無意識のエネルギー

潜在意識のさらに奥には、無意識の領域が有る。この領域は二層に別れ、一つは個人的無意識、もう一つは集合的無意識と名付けられている。

 

個人的無意識

潜在意識よりも早期に植え付けられた記憶等は、より意識の届かない深い場所に存在する。

個人としての全ての記憶が個人的無意識に眠っている。生命の細胞が分化し、母親の羊水から一人の人間として生まれ落ちてから、その後の成長に関わる瞬間瞬間の記憶が貯蔵されているという。

 

集合的無意識

DNAによって受け継がれる情報は生物としての集合的な状態をも含まれると思われる。現存する全ての生命は、たった一個の細胞から進化してきたものだからである。生命の起源、古細菌から原核細胞、多細胞生物に至るまで全ての起源は、たった一つの細胞へと集約される。

 

これらの意識のエネルギーの中でも特に潜在意識には顕在意識と無意識とを紡ぐ重要な役割がある。潜在意識に蓄えられている様々な情念には、肯定的な情念と否定的な情念があり、それらは長い時間を経て無意識の奥底へと追いやられていくが、顕在意識が認知できないレベルで現実に投影され、生活やその人の人生に影響を与えている。中でも否定的な情念が投影されると、その人の人生自体も否定的な方へと導かれ、心の高度が下がる重力として働く。

ではどうすれば良いのだろうか?まずは潜在意識に意識的に肯定的な情報を刷り込む。いわゆる引き寄せの法則と呼ばれている自己暗示や古典的な成功への黄金律を紹介している自己啓発方法は、すべてこの類である。

 

『ザ・マスターキー』より

心の調和は外の世界に反映される。

心の調和とは、自分の思考をコントロールして経験がどのように自分に影響するのかを自分で決めることができる能力である。

心の世界の知恵を自覚することが調和のとれた成長を遂げるためのパワーとなる。

心の世界には全てが既に存在している。外の世界は心の世界の投影である。

心の調和は自然の法則と調和していなくてはならない。

外の世界との関わりは客観的な心が行う。その心の物理的な器官が脳であり、脳脊髄神経系が身体のあらゆる部分とのコミュニケーションを可能にする。脳脊髄神経系を通じてあらゆる感覚及び刺激が身体に送られてくる。この感覚及び刺激が心地よく感じられるならば、思考は建設的になる。結果、私たちに強さや活力が生じ、身体に建設的なパワーが宿ることになる。

また、マザーテレサはこう言っている。

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

 

思考は言葉に現れ、言葉は行動に現れる。

行動は習慣となり、習慣は性格を堅くする。

それゆえ思考を見張り、その動きに気をつけよ。

そしてすべての生命に対して慈しみの心を起こさせよ。

これらのエネルギーを意思のはたらきによって活用する

これまで述べてきた身体的なエネルギーや潜在的なエネルギーをいかに心の高度を上げるために使うのか?それは意思の力という自分で制御が可能な力を利用するのが常套手段となる。潜在意識は普段、顕在意識の支配下にあり、顕在意識の働きが弱くなった時に不意に現れてくる。よくあるのが、眠くてたまらないとき、無意識のうちに何かを行っていたり、禅の修行などは敢えて厳しい肉体的な疲労を与えて、意識がはたらかないように仕向けたり、また、緊急時、命の危険に迫った時なども無意識的に身体が勝手に反応して事なきを得る、ということもある。

どういう状態にしろ、無意識、潜在意識を働かせるには特別な状態に身を置かなければそのエネルギーが表立って現れることは少ないといえる。

なので、今の段階では、潜在意識ではなく、顕在意識をいかに心的エネルギーとして、心の高度を上げるために使うのか?という点に焦点を当てていくことにする。

マズローの欲求五段階説の自己実現欲求が発動していれば、この意思の力は比較的スムーズに心の高度を上げるために利用されるであろう。自己啓発の読書やセミナー、様々な自分への投資を通じてセルフを中心に、自我の統合を進めることが可能になる。

お気に入りの言葉を毎日唱えたり、瞑想に励んだり、前向きな意思は心のエネルギーを豊かにしてくれることであろう。どのような活動をするにせよ、このような状態は自分の心を高揚させるに違いない。

 

集中と持続

一心不乱、心頭滅却、等、気持ちを静めて精神を統一し、心を無の状態にすると言うが、それはどのような状態なのだろうか?思考を経ずに「今ここ」をありのままに受け入れるとき、一体何が起こるのだろうか?

心の高度を上げるための恐らく最終的な目標、到達点のようなものは「悟り」「空」のようなものだと思われるが私自身経験してない上に、一足飛びにそのような心の状態に踏み込むなんて不可能である。

まずは少しずつ、そしてそれを継続すること。最終ゴールを目標に定めたら、中間目標を割り振り、あきらめずに長期的に目標に到達することが必要なのだ。

心のスタミナ、持続力を高めて山頂への合目を頼りに一歩一歩、心の高度を高めて登ることにしよう。



知識は意識の焦点を変え、思考の変化を促し、そこに気づきが生まれる。気づきは思考の選択肢を増やし、思考の選択肢が増えると新しい行動に繋がり、それを意識の力で訓練することで習慣化されまる。これが知識の血肉化である。

気づきによる知識の血肉化

そして潜在意識への働きかけ

これらを実践することはもちろんであるが、もっと簡単に潜在意識に肯定的に働きかける事はできないのだろうか?それにはまず、否定的な情念を潜在意識から追い出すことにしよう。以外に簡単で、えっと思うかもしれないが、「ダイスキな事に没頭する!」。

これが心の洗濯と呼ばれるストレスを減らす方法である。なんだか当たり前のこと過ぎて拍子抜けかもしれないが、私にとっては山登りほど的を得ている方法はない。

まさに心の山登りの実践は貴重な自己実現方法といえるが、潜在意識を活用する方法については、トランスパーソナルシンセシスという自己の統合法で実現したい!

<コーヒーブレイク>

 

ストレスと山歩き

実際の山登り、山歩きが自身のストレスと関係があるのか? 

疲労科学研究所が開発した「疲労ストレス計測システム」VM500を用いて、まずは自分自身で実証データを取りたいと思い、今現在活動中です。

yamap.com

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